恐怖の代走 [つかぴょんの麻雀小説]
この物語はつかさ会メンバーの実体験ではありますが
遥か昔の事なのですでに時効の怖いお話です。
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恐ろしい恐怖体験というのは、何十年たっても鮮明に覚えているものだ。
今でも、たまに夢でうなされることがある。
そう、あれは大学2年の頃、やはり世はバブルの絶頂期だった。
とある雀荘。セット打ちの一般の学生達からは、その雀荘は恐れられていた。
オーナーは学生思いの本当に優しい面倒見の良い人だったけれど、
一部の客層とレートが、かなり危険な雰囲気を醸し出していたからだろう。
開店当初は点5の卓も立っていた。
だが、日本経済の好景気に影響を受け、店内の麻雀のレートもとてつもなく景気がよくなり、もう自分の軍資金では参戦できなくなっていた。
ピンのワン・スリー前出し千円一発ウラ祝儀千円。それが最低レートだったように思う。前出しというのは、トップ賞の前出しの意味らしく、対局前におのおの1000円ずつ出し、トップが総どりする、というルールだ。
けれど、私はその雀荘が大好きだった。
私の仲の良い友人が何人かメンバーをしていたことも理由の一つなのだけれど、
何よりも鉄火場な空気が大好きだった。
店内を跋扈している熟練の麻雀打ちが対局の観戦を許してくれるし、勝負のアヤなんてものも教えてくれる。
本当に極稀に、点5で遊んでくれたりもする。
「何かの間違いで点5の卓でも立ってないかなあ。」
牌に触りたくて仕方のない私は、22:00からコンビニのバイトがあったけれど、
夕刻から営業を開始する、その店のドアを開いた。
賑やかな店内。雰囲気から察するに点5はおろか、点ピンすら怪しい。
どうやら200円の卓がメインのようだ。
「おう。入るか?」
常連さんが気さくに声をかけてくれたのだけれども、そのレートに見合う、雀力も軍資金も度胸も私は持ち合わせていなかった。
「すいません、勉強させてください」
30分ぐらい過ぎただろうか?突然、千点500円以上のレートで打っているであろう、店の最深部の卓から、怒鳴り声が響いた。
「はやく、家に帰って10万持って来い!」
見た目も恐ろしければ、性格も恐ろしいその声の持ち主は、麻雀の種銭を、となりにいた奥さんに取りに帰るように命じた。
ずいぶんと負けが込んでいるのだろうか?その男がとてつもなくイライラしている様子が、見なくても痛いくらい伝わってくる。
私は、絶対の関わり合いにならないよう、努めてその男の方を見ないよう気をつけていた。
が、しかし。また、その男の怒声が店内に響き渡る。
「おい!代走だ!おい!早くしろ!」
お酒が入っているせいか、その男は半荘の局の途中、しかも親番の前に、いきなり代走を要求した。
嫌な予感がした。
店内は、運悪くメンバー全入り。
その男の奥さんもお金を取りに店を離れているため、店内で空いているのは、私だけである。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。麻雀牌には触りたいけれど、あの男の代走はご免こうむる。
しかも、超高レート。冗談ではない。しかし、無情にも必然的に私に声がかかった。
「おい!そこの若いの!暇だろう?ちょっと代走してくれ。便所だ」
バイトがあるから無理だと、断わる私。
だが、「バイトなんか、行かなくていい。おい。ちょっと、代走しろ!」と返してくる。
なるほど、強烈に理不尽である。さすが無法者だ。
店内に不穏な空気が漂ってきたので、やむえず、代走を引き受ける私。
その無法な男は、「もう30万負けてる。おまえ、絶対振るなよ?」
そう私に吐き捨てトイレによたよたと向かった。
「ええええええ。どんなレートで打ってるんだ・・?・・?」
夕方開店だから、まだ半荘3.4.回位しか打っていない筈だ。
殺される。
振り込んだりしたら、間違いなく殺される。
点棒が減ったら、私の寿命も同じ位減るであろうことは、容易に想像できた。
対局者の横のカゴには、一万円札のズクが無造作に放り込んである。
万札ばかりだ。
もしかして、デカピン?困惑している私に同卓者から「はやく切りなよ」と声がかかる。
ガタガタ震えながら、配牌から一枚切り出す私。
クラクラしながら、冷静に手牌を見ると、東が二枚ある。
よし、こいつを安牌にしよう。よく見ると、北や、発なんていういかした牌もいる。
よし。牌を握ると気持ちも落ち着いてきた。要するに振り込まなければいい。
トイレ代走なんて、いいところ一局だ。配牌からオリていれば、一局振らずにいなすことなんて、造作もないはずだ。
東2局南家。ドラは⑤ね。よしよし一枚もないぞ。これなら、アガリに向かう理由もない。
おとなしく、あの無法者の帰還を待つとしよう。そう決めると、安牌を貯め気味に模打を繰り返した。
3.4巡くらいして、私は強烈な違和感に襲われた。
ん。ん。なんか、いつもと違う。
何か手牌、短い気がするにゃあ。
気のせいかなあ。あれ?なんで、俺、南家なのに、上ツモなんだろう?
ひいふうみい。ひいふぃう。・・あれ??あれ?
12枚しかない。13枚あるはずの手牌が、12枚。
ええええええええええええ!!・・・?・?小牌!
やっちまった。
代走に入ったとき、ツモらずに切ったんだ。
ばかばかばかばかばかばか!とりぷるばか!!!俺のばか!
果てしないばか!どうしよう。
このままだと、上ツモ下ツモの異変に対局者が気付き、私の小牌がばれてしまう。
なんとかしないと。大変だ。とにかくツモ順を変えてごまかせ。
緊急事態である。
私は、安牌の最有力候補であったはずの東をポンして、9枚の手牌で構え、うまいことツモ順をずらした。
常連であるところの対局者から「代走がしかけるか?」との誹りを受ける。
だが、こちらはそれどころではない。
小牌がバレないように、自転車のハンドルを握るように9枚の手牌の両端を押さえ平静を装う私。
しかしながら、あの無法者が戻ってきたとき、東を仕掛けておきながら手牌バラバラなどという、ふざけたことになっていたら、それはそれでもちろん、ただではすまないだろう。
アガリに向かったけれど、危険牌を掴んでおりました。という感じが一番良い。
そう思い、少し聴牌を意識して牌を集める私。
いつしか手牌は9枚なのに、イーシャンテンのような形になっていた。
まあ、永遠に聴牌は不可能だけどね。
小牌だから。①③③③234七七。東ポン。
どうすれば聴牌できるのか教えて欲しいものだ。
安牌チックな牌は①位しかない。
トイレのドアをチラ見する私。無法者よ。頼むからまだ出てこないでくれ。
てゆうか、早く誰かあがってくれ。
もうこうなったら一枚位拾っちまうか?
もういっそのこと、おまわりさん呼ぶか?
賭博行為で検挙。あ、俺も捕まるなあ。そうしたら、やっぱり退学になるかなあ?
もう、本当にいろいろな思惟が脳裏をよぎる。
わずか数分間のことなのだろうけれど、私にとっては、無限の時のように感じられた。
しかし、残念ながら、トイレのドアが開いた。
無法者のご帰還である。 つづく
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