親の錯誤行為 [つかぴょんの麻雀小説]
邂逅4 [つかぴょんの麻雀小説]
狭い入り口を、体を斜めに滑り込ませながら、大男があらわれた。
なんという、迫力。服装から察するに、仕事帰りのようだ。
私は、「ひろりん」のことを、雀ゴロと信じて疑っていなかった為、かなり驚いた。
私は、席を立ち、「ひろりん」のそばへ行き、しっかりとした声で、想いを告げた。
「ひろりんさん、つかぴょんです。私と麻雀を打ってください。」
ひろりんは、ああ君か、という顔をして、私を見つめている。
私は続ける。
「レートは、いくらでしょうか?半荘1回でも構いませんから、お付き合いください。その為に来ました。」
私は、嘆願した。だが、返ってきた返事は、意外な言葉だった。
「つかぴょんくん、らくえんで一度いっしょだった子やね。こんにちは。」
しっかりとした、重い優しい口調。「ひろりん」は続ける。
「わしは、金を賭けて、麻雀は打たんよ。」
「だが、せっかく、来てくれたんだ。ひとつでいい、おみやげを持って帰りなさい」
「あなたの、麻雀を見せてもらえるかな?なにか、教えてあげることができるかも知れない。」
予想していなかった展開に私は、驚いた。
だが、「ひろりん」の温かい口調は、とても自然で、私は当たり前のように、ノーレート健康麻雀の卓についていた。
私の後ろには「ひろりん」が重戦車のように腰かけている。
ノーレートの麻雀?
この俺が?ばかばかしい。
麻雀教室なのだから、止むなしか。
頭の隅でそう感じたが、「ひろりん」の言葉には抗えない力強さがあった。
自分の身の回りに起きている事象に、全く実感が湧かなかった。
ポケットの10万に出番はなさそうだ。
私は、サイコロを振り、いつもの様に、すばやく牌をとり理牌をせずに、他にも打牌候補となる字牌があるにも関わらず、ピンズの⑤⑤⑥から、一打目にいきおいよく⑤を切り出す。
⑤は、激しい濁音をたてて、卓に打ち出された。
打ちなれていないと、できない打牌選択のはずだ。
私は、「ひろりん」に認めて欲しかった。褒めて欲しかったのだと思う。
今思えば、あまりにも脆い矜持。
「捨てた牌を、戻しなさい」
「ひろりん」の重い叱責の声が私の後ろから、強く響く。
え????困惑する私に、「ひろりん」は続ける。
「君の、麻雀は、ひどすぎる。牌を、大切にしなさい。君には、麻雀を打つ資格がない。」
「同卓者を大切にしなさい。
牌や人に感謝の気持ちを持つことができないのならば、
わしが、あなたに教えることは、何もない。
もう、このまま、ゲーム代はいらないから、帰りなさい。」
驚く私に、さらに「ひろりん」の言葉は続く。重く諭すような、優しい声。
「けれど、あなたが、麻雀を勉強したいと本気で望むのならば、
わしの知っていることなら、全部教えてあげる。あなたは、どうしたい?」
私の中の、「上手にお金を賭けずに麻雀の技術を会得したい」、などという、打算的な考えは消え失せていた。
私は、深く息を吸い込んで答える。
「強く・・なりたいです・・・。誰にも負けないくらい。・・・」
「ふむ。」
「ひろりん」は、すこし睥睨したようにも見えたが、にっこり笑った。
「では、まず、牌の扱い方からだ。
わしを信じるのなら、
いままでのあなたの麻雀は全て捨てなさい。」
それから、3年。「ひろりん」と私は、師匠と弟子として、
また何よりも大切な友人として、共に歩むこととなる。
私は、結局、麻雀そのものはたいして強くならなかったけれど、
そんなことよりも、大切なことを、いくつもいくつも、教えてもらった。
まさに、僥倖。この師との邂逅は、私の人生にとっての、宝物となった。
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邂逅3 [つかぴょんの麻雀小説]
その大男の名前は、「ひろりん」というらしい。
翌日、私は、その男、「ひろりん」を探すことに終始した。
電話帳を広げ、まず、たまに出没する可能性のあると訊いた、K区の麻雀道場の住所を探した。
麻雀道場であれば、低レートで卓が立っている可能性が高い。
できるだけ、種銭を使わずに「ひろりん」と再戦したい、というのが、私の本音だ。
私は 電話帳に、麻雀教室の名前を見つけた。
麻雀道場ではないけれど、それらしい表記は他には見当たらない。
私は、その麻雀教室に足を運んでみることにした。場所も非常にわかりやすいところにある。
麻雀の必勝法は、絶対に自分より、弱い人間と打つこと。
弱い人間とは、大局観を持たない人間のことだ。
目の前の一局だけに捉われた麻雀を打つ人間は、ミスも多いし、ミスを怖がらない。
自分の手だけを見ている人間の麻雀を、怖いと思ったことはない。
だが、「ひろりん」は自分の手牌には、一瞥もくれず、他人の捨て牌をじっとみていた。
全然敵わないことなど、百も承知だ。
けれど・・・。
今、思えば、私はおそらく、もう、「ひろりん」の麻雀に魅了されていたのかも知れない。
時刻は、午後8時。そろそろ頃合だ。
私は、その麻雀教室のドアを叩いた。
「こんにちは」
「ひろりんさんと、打ちたいのですが・・・」
短刀直入である。今思えば、なんと無礼な振る舞い。まるで、道場破りである。
教室内では、昭和の匂いの漂うサラリーマンが、麻雀談義を繰り広げている。
麻雀の為の空間、という感じだ。活気のある喧騒。
教室の経営者らしき男が、私に返す。
「ひろりん・・?ひろりん先生なら今日は来ないよ」
「ひろりん先生に会いたいなら、また明日・・・、そうだな、午後7時位においで」
先生?あの雀ゴロの化身のような男が、先生・・・?
私は、なんだか不思議な気持ちで、この日は、帰宅して出直すことにした。
なんとなく、牌に触りたくなり、その後、楽園に向かった。3半荘くらい打って帰宅した。
翌日、午後6時半くらいに、教室に着き、私は、「ひろりん」を待った。
教室内では、90符がどうした、とかそんな話題ばかりが、飛び交う。
ドアが開く。
おとといと同じ雰囲気で、「ひろりん」があらわれた。
つづく
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邂逅2 [つかぴょんの麻雀小説]
対局は、だんだんヒートアップしていった。
次局の私の先制親マン確定リーチも、大男に簡単にいなされてしまう。
私のリーチの現物でのロンアガリ。聴牌の気配すらなかった。
結局、私の勝負手は、その大男につぶされ、その代わり安いアガリを拾うことはできるという、なんだか釈然としない展開が続いた。
またか、と思うくらい、値段のあるリーチは全て捌かれた。
対局中、常にその大男の捨て牌は異様で、何をやっているのか、皆目検討もつかなかった。
完全にその大男に卓を支配されているような、そんな気分だ。
大男は、2000点以上の手役には振り込まず、また、3900点以上の手をあがることもなかった。
そして、リーチを打つことは、結局、ただの1度もなかった。
一発、裏有りのフリーの麻雀では、考えられないスタイルだ。
半荘3回目に入る際、その大男がラス半コールをいれ、結局、勝負は半荘3回で終わった。
私の成績は2着、3着、3着の沈み。大男は、結局ノートップの3着、2着、2着だった。
「いやあ、遊ばせてもらったばい・・。ありがとうね。」
大男はそう屈託なく笑い、カードを現金に交換すると、雨の降る闇夜に消えて行った。
こっちは、完全に遊ばれてしまった。
例えようのない屈辱が身を包む。
世界が違う。
私も換金をしようと、カウンターへ行く。店員の男の子が、驚いている。
「偶然やろうか?丁度、プラスマイナスゼロだ。」
あの大男の半荘3局の終始がプラスマイナスゼロだと、いうのである。
そんな、ばかな・・・・狙ってできるはずがない・・偶然だ・・。
私は、不本意ながらあの大男について、店員に尋ねた。
店員から、聞き取った情報は以下の3点。
①今回3回目の来店で、前回も前々回も、夜中にふらっと現れて、半荘3回を打ってトントンのチャラ収支で帰ったということ。2ヶ月に一度位のペースでの来店している、とのこと。
②おそろしく高いレートの麻雀を打っているらしい、ということ。
③そして、現在、K区の麻雀道場にも出没しているらしい、ということ。
私は、店を後にして、考えていた。
どうすれば再戦できるか、を。なんだか、あの大男に子供扱いされた気がして、本当に惨めだった。
あの大男は全然本気で打ってなど、いない。
高いレートってどれ位だ・・・?
私は、戦える種銭を確かめてみる。10万円くらいだ。
軽々とは使えない、大切なお金。
しかも、再戦しても、全く勝てる気などしない。
だが、麻雀において、自分の遠く及ばない世界がある、ということが、あまりにも切なかった。
薄々は、感づいていた。麻雀の世界の深さは、自分ごときが、どうにかできるモノでは、ないと。
けれど、知りたかった。その、まだ見ぬ世界を。
そして、やはり強くなりたかったのだと思う。
本当なら、2ヵ月後、また大男が現れるのを待てば良いだけだ。
けれど、もう1分1秒も待つことは、できなかった。
私は、10万円のうち、5万円までは、止むを得ない授業料だと考えるようにした。
ラスさえ引かなければ、500円でも半荘2回は打てる。200円なら、5回打てる。
今まで、そんな身の丈にあっていない麻雀など打ったことがなかった。
お金はいらない。
とにかく、あの大男の見えている世界が少しでも知りたい。
私は、翌日、大男を探す旅に出た。
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今週のつかさ会は5/15(日)10:00~20:00くらいまで
前半は1発裏無しの競技麻雀形式の予定です
場所は本厚木の楽遊
ただ今、会員募集中!見学及び途中入退場自由です
つかさ会を見に来ましたと言ってお入り下さい
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邂逅 [つかぴょんの麻雀小説]
その、楽園ともいうべき麻雀荘での、私の成績は、良好だった。
不ツキのアヤを感じれば、もうその日は店じまい。ツイているときは、とことん攻める。そんな、「身勝手な振る舞い」が許されていたからだ。
とにかく、お金が目的だった。当時は、麻雀での僅かながらの副収入も必要だった。
たくさんいる常連客のなかで私だけが、「麻雀を打つこと」ではなく、「お金」を目的にしていた。
しかも、お金が目的と悟られぬよう、目立つ振る舞いは控えていた。
ラスは引かないこと。南2局からの、2着狙いなんて、常套手段だ。2着にぶらさがることは、ある意味トップをとることよりも大切だった。2着3回、トップ1回は、トップ3回、ラス1回より価値があった。
その日も、卑しくも、日当分を稼ぎ、雨足の強い帰路を気にしながらも、私はラス半コールを入れた。
店員2人入りでの、その日最後の対局。ゲーム代を先払いしようとした刹那、店のドアが開いた。
「打てるじゃろうか?」
声の主は、山のような大きな体をしていた。
人の良さそうな顔つきだが、目だけが妙にギラギラとしている。
「もし、邪魔でなければ、1.2回遊ばせてもらえんじゃろか?」
そう続けるその男に、店員は「どうぞ」と席を譲りルール説明を始めた。
「レートは・・・」そう口にする店員をその男は遮る。
「説明はええ。また、わからんことがあったら、教えてつかあせ」
謙虚なのだかなんだか、とにかく、私は、その男のことが気にいらなかった。
「レートもルール説明も無用とは、何様だ。偉そうに!気に入らない!」そう思い対峙する。
今日の私は、思いのほか、状態がよい。ツモリ続けてやる!
奇妙な静寂の中、対局が始まった。対局の顔ぶれは、私と、店員さんと、20代の若者と、その大男の4人。サイが振られる。
私は、南家。大男は、西家。私の正面の席に腰掛ける。
東1局 南家である私に、役牌の南が組まれる。開局刹那、初牌の南を叩いてすばやく、南ドラ1、2000点を和了する。
(フリー麻雀のコツは、安手だろうとなんだろうと、とにかく手麻雀であがり続けること。自分の手が安いということは、他家の手は高い。自分が安手でもあがれば、他家のチャンス手をつぶすことができる。まずは、他家の形を払うこと。そう、その頃の私は信じていた。)
いつもどおりの軽いあがり。いい感じだ。そう思い、点棒を受け取る私の手牌に、強い視線を感じた。
大男が、遠くをみつめるような、慈しむような、なんとも表現できない表情で、私の捨て牌と、倒された手牌を見つめていた。
私ではない、麻雀牌を見つめていた。
「なんだ、この男は?なにか文句があるのか?」
私は、その大男になんともいえぬ不思議な感覚を覚えた。いままで、こんな風に自分のあがり、自分の麻雀を強く見つめられたことなどない。不気味であることはもちろんなのだけれど、なんだか自分の南ドラ1の和了が、とんでもなくいけないことだったような、そんな気持ちまで、沸いてきた。
「ふざけるな!」
頭を振り、そんな雑念を振り払う。「いままでも、こうやって打ってきた。結果は出ている。これからも、同じ様に打つだけだ。俺は間違ってなどいない」次局は、私の親番だ。自分のアガリでひっぱってきた親番。展開は良好だ。私は、卓上に漂う違和感に気づかないふりをしながら、自分を信じて、次局に向かってサイコロを振った。
軽いアガリの後の親番、私が仕掛ければ他家は警戒して、手を遅らせるだろう。配牌を取りながら、「とにかく食い仕掛けていこう」 私はそう考えていた。
配牌は、二四②④⑧⑨799発発東南北。ドラは7。
「よし、仕掛けて発ドラ1。親だし2900点で充分だ。三や、③から食い仕掛ければ、タンヤオでを警戒させることができ、他家を牽制することができる。最高の配牌だ。」密かにほくそえみながら、打北。暫くして、上家の三をチー打⑨。二三四を晒す。⑤をツモリ打⑧。だが、マンズの下を仕掛け、ピンズの上の愚形⑨からを払うことで、タンヤオ、下の三色を思わせ、タンヤオ三色ドラ1、親の5800点をおもわせたかった。
③をツモリ打南。二三四チー ②③④⑤799発発東 6巡目に、待望の発をポン。打東。タンヤオに見せかけて、役牌を鳴く。当時は、これが私の必勝パターンだった。二三四チー 発発発ポン ②③④⑤799。次巡②をツモリ、打9.ドラを生かした、カン8待ちだ。7巡目、2900点の聴牌。ちらりと、大男の捨て牌を見る。4巡目に8を切っている。「よし、いい展開だ。あの大男からあがってやる。」
「しめしめ」そう思いながらも無駄ツモが続く、12巡目、ツモッてきた⑤を空切りする。「これで、ピンズも打ち辛いだろう。」、大男の河をみつめる。「早く8出ないかなあ?」私は大男の河を見つめ待ち続ける。
しかし、大男は、親である私の⑤手出しに、③、④とピンズの両面ターツをはずしてきた。なんとも不気味である。「私に、もしドラ7がトイツで入っていたら、12000点の可能性だってあるのに。大男がドラを持っているのだろうか?」大男の4巡目のドラ切りが、不気味に光る。だが、4巡目にドラを重ねていながら、12巡目、13巡目に危険なピンズの両面ターツはずしとは、どういうことだろうか?大男の捨て牌は、あらゆる牌構成を私に想像させた。序盤8切り、東のあわせ打ち、でホンイツは考え辛い。タンピンだろうか?15巡目に私は5をツモ切る。しかし、8は釣れない。大男も次巡5を手出し。
予想外にも流局だった。
おそらく私以外全員ノーテンだろう。2900点のあがりも、ノーテン罰符の3000点の収入も、私にとって、充分な結果だ。そう思い親である私から、手牌を倒す。下家はノーテン。
しかし西家の大男が、手牌を晒した。
私は不覚にも、驚愕を隠せなかった。
12233468西西西南南。!!!カン7待ちメンホンの聴牌である。
しかも肝心なドラも使ってない。大男の模打は4巡目には8。終盤に5手出し。
8でなく5を切れば12233456西西西南南の高め1ハネツモ3面待ち聴牌なのに。
「間違いない。カン8を一点で読まれた。しかも、メンホン聴牌。」
偶然ではない。何なんだ?この男は?仮にカン8を読めたとしても、麻雀には入り目がある。一点で読むことなど不可能だ。しかも、8を切れば、最終形の3面待ちの聴牌。8切りを我慢などできるはずはないのだが。
大男は、また、わたしの手牌と捨て牌を見つめている。
その表情は、うまく読み取れないけれど、さびしそうにも映る。
「もしかして、とんでもない相手なのか?何故、こんな安レートの雀荘に?」
もう既に、私の気持ちは完全に飲まれていた。
自分の信じていた麻雀が、ひどく稚拙にも思えた。
「でも、それでも、自分のフォームを信じるしかない。これしか自分にはないのだから。」
私は、次局も軽く仕掛けるべく、いつもより少し長めに、また、祈るように、サイコロのボタンを押した。
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恐怖の代走 完結編 [つかぴょんの麻雀小説]
つづきです。
*************
トイレから出てきた無法者は、まっすぐこちらに戻らずに、他の卓にちょっかいを出している。
今日はついてねえ、みたいな会話を交わしている様子が、遠くにうかがえた。
ついてないのは、こっちのほうだ。
心の中で私はそう叫んでいた。
「早く、誰かあがってくれ」
その私の満身の願いが天に届いたのか、上家から5000点棒でリーチが刺さった。
「おう、5倍のリーチだ、ケケケ」
「おい、若いの、両替してくれ」上家は、5000点棒を私に投げてよこした。
たのむから余計な仕事を増やさないでくれ。内心イライラしていたが、速やかに両替をして、ツモ山に手をのばしかけた、そのとき。。
おう、振りこんでないだろうなあ?
と私の背後より、声がかかる。
「きたーーー」
奴が帰ってきた。背後に修羅の気配を感じる。
「もうその局はおまえにまかせた、振るなよ」念を押し、無法者は私の背後の小さな椅子にドカッと座った。
私の手牌は 東東東ポンの ①③③③234七七
マンズの七七の部分を右手で力強く隠していたので、後ろから観ている無法者は、①③③③234七八九の聴牌と思っているはずだ。
だから、②や①が出たり、②や①をツモッたりすることが一番困る。
「何であがらないんだ!殺すぞ」となるに決まっている。
まあ、あがらない、じゃなくて、あがれない、なんですけどね、小牌だから。
ここで持ってきて欲しいのはダークドラゴンクラスの危険牌だ。
「あ、これはもう、代走なら切るわけないよね」みたいな牌。
祈るようにツモ山へ手をのばす。ツモ牌が、後ろから見えぬよう、ぐりぐり盲牌する。
もし、その牌が①や②だったら、ふせたまま、上家のリーチの現物である4ソウを抜き打つつもりだった。
盲牌した感じでは、縦に線がいっぱい入ってる。
なんだっけ?これ?。六ソウかな?と思って開くと、9ソウだった。
ちなみに私は、盲牌もへたくそである。
リーチ者の河には、4.5巡目に8ソウ7ソウが逆切りしてある。
手出しとか、ツモ切りとか全然見ていないので、捨て牌読みの根拠にはならないけれど、4ソウも切れているし、9ソウはいかにも安牌チック、とおりそうだ。
だがしかし、聴牌を壊すチャンスは今しかない。千載一遇のチャンス。
私は、後ろの無法者の良く見えるように、ツモッてきた9ソウを手牌の左側に留め、
「この9ソウを持ってきたから降りるんだ、良く見とけ」とばかりにリーチの現物の4ソウを抜き打った。
絶対に振るな!、というご主人の言いつけを忠実に守る形となったのだ。
「一発ツモ、6000オール」12345678②③④⑤⑤ 3ツモ。
ドラを大切にした為、面子過多のソーズの上を払ったのだろう。リーチ一発ツモピンフドラドラ。
9ソウを切っていたら、18000点。18000発位は殴られていただろう。
いろいろな意味で、即死はまぬがれなかったと思われる。
6000点を点ハコから、一発のご祝儀2000円を無法者のカゴから払い、9枚の手牌を全力で全自動卓の開口部に叩き込んだ。
証拠隠滅。助かった。
奇跡の生還。生きてるってすばらしい。
無法者と交代すべく席を立つ私に、声がかかった。
「おう。若いの。よく9ソウ止めたなあ。たいしたもんだ。」
無法者は私を褒め「、なんか、食え。」と1000円札を手渡した。
「ええ、小牌ですから」なんて、答えるわけにはいかないので、軽く会釈をして、「バイトにいきます」と雀荘を離れた。
その1000円はなんだかものすごくくだらないことに使った記憶がある。
また、チョロチョロその雀荘に顔をだして、常連達から「あの時小牌していただろう?」なんて言われたら、目も当てられないので、2.3ヶ月は店には近づかないようにした。
今でも、思い出し、考える。
あの時の私の小牌は既にバレていたのではないか、などと。
今でも小牌の夢は寒い日なんかに良く見る。まったく持って忌まわしい記憶だ。
でもね、よくよく考えると、悪いのはどう考えても、私である。
今、この場を借りて謝罪します。
小牌してごめんなさい。
END
***
今週のつかさ会は3/20(日)
小田急線本厚木駅近くの「楽遊」です
AM10:00スタート、夕方くらいまでやってるので一緒に打ちませんか?
そのまま、会場にいらっしゃって
「つかさ会に参加します。」
と、お店の人に声をかけてください。
観戦、無料。
半荘1回、300円です。
「今日は、おれ、おかねないっす。」
という方も、気軽に覗いてみてください。
恐怖の代走 [つかぴょんの麻雀小説]
この物語はつかさ会メンバーの実体験ではありますが
遥か昔の事なのですでに時効の怖いお話です。
*********
恐ろしい恐怖体験というのは、何十年たっても鮮明に覚えているものだ。
今でも、たまに夢でうなされることがある。
そう、あれは大学2年の頃、やはり世はバブルの絶頂期だった。
とある雀荘。セット打ちの一般の学生達からは、その雀荘は恐れられていた。
オーナーは学生思いの本当に優しい面倒見の良い人だったけれど、
一部の客層とレートが、かなり危険な雰囲気を醸し出していたからだろう。
開店当初は点5の卓も立っていた。
だが、日本経済の好景気に影響を受け、店内の麻雀のレートもとてつもなく景気がよくなり、もう自分の軍資金では参戦できなくなっていた。
ピンのワン・スリー前出し千円一発ウラ祝儀千円。それが最低レートだったように思う。前出しというのは、トップ賞の前出しの意味らしく、対局前におのおの1000円ずつ出し、トップが総どりする、というルールだ。
けれど、私はその雀荘が大好きだった。
私の仲の良い友人が何人かメンバーをしていたことも理由の一つなのだけれど、
何よりも鉄火場な空気が大好きだった。
店内を跋扈している熟練の麻雀打ちが対局の観戦を許してくれるし、勝負のアヤなんてものも教えてくれる。
本当に極稀に、点5で遊んでくれたりもする。
「何かの間違いで点5の卓でも立ってないかなあ。」
牌に触りたくて仕方のない私は、22:00からコンビニのバイトがあったけれど、
夕刻から営業を開始する、その店のドアを開いた。
賑やかな店内。雰囲気から察するに点5はおろか、点ピンすら怪しい。
どうやら200円の卓がメインのようだ。
「おう。入るか?」
常連さんが気さくに声をかけてくれたのだけれども、そのレートに見合う、雀力も軍資金も度胸も私は持ち合わせていなかった。
「すいません、勉強させてください」
30分ぐらい過ぎただろうか?突然、千点500円以上のレートで打っているであろう、店の最深部の卓から、怒鳴り声が響いた。
「はやく、家に帰って10万持って来い!」
見た目も恐ろしければ、性格も恐ろしいその声の持ち主は、麻雀の種銭を、となりにいた奥さんに取りに帰るように命じた。
ずいぶんと負けが込んでいるのだろうか?その男がとてつもなくイライラしている様子が、見なくても痛いくらい伝わってくる。
私は、絶対の関わり合いにならないよう、努めてその男の方を見ないよう気をつけていた。
が、しかし。また、その男の怒声が店内に響き渡る。
「おい!代走だ!おい!早くしろ!」
お酒が入っているせいか、その男は半荘の局の途中、しかも親番の前に、いきなり代走を要求した。
嫌な予感がした。
店内は、運悪くメンバー全入り。
その男の奥さんもお金を取りに店を離れているため、店内で空いているのは、私だけである。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。麻雀牌には触りたいけれど、あの男の代走はご免こうむる。
しかも、超高レート。冗談ではない。しかし、無情にも必然的に私に声がかかった。
「おい!そこの若いの!暇だろう?ちょっと代走してくれ。便所だ」
バイトがあるから無理だと、断わる私。
だが、「バイトなんか、行かなくていい。おい。ちょっと、代走しろ!」と返してくる。
なるほど、強烈に理不尽である。さすが無法者だ。
店内に不穏な空気が漂ってきたので、やむえず、代走を引き受ける私。
その無法な男は、「もう30万負けてる。おまえ、絶対振るなよ?」
そう私に吐き捨てトイレによたよたと向かった。
「ええええええ。どんなレートで打ってるんだ・・?・・?」
夕方開店だから、まだ半荘3.4.回位しか打っていない筈だ。
殺される。
振り込んだりしたら、間違いなく殺される。
点棒が減ったら、私の寿命も同じ位減るであろうことは、容易に想像できた。
対局者の横のカゴには、一万円札のズクが無造作に放り込んである。
万札ばかりだ。
もしかして、デカピン?困惑している私に同卓者から「はやく切りなよ」と声がかかる。
ガタガタ震えながら、配牌から一枚切り出す私。
クラクラしながら、冷静に手牌を見ると、東が二枚ある。
よし、こいつを安牌にしよう。よく見ると、北や、発なんていういかした牌もいる。
よし。牌を握ると気持ちも落ち着いてきた。要するに振り込まなければいい。
トイレ代走なんて、いいところ一局だ。配牌からオリていれば、一局振らずにいなすことなんて、造作もないはずだ。
東2局南家。ドラは⑤ね。よしよし一枚もないぞ。これなら、アガリに向かう理由もない。
おとなしく、あの無法者の帰還を待つとしよう。そう決めると、安牌を貯め気味に模打を繰り返した。
3.4巡くらいして、私は強烈な違和感に襲われた。
ん。ん。なんか、いつもと違う。
何か手牌、短い気がするにゃあ。
気のせいかなあ。あれ?なんで、俺、南家なのに、上ツモなんだろう?
ひいふうみい。ひいふぃう。・・あれ??あれ?
12枚しかない。13枚あるはずの手牌が、12枚。
ええええええええええええ!!・・・?・?小牌!
やっちまった。
代走に入ったとき、ツモらずに切ったんだ。
ばかばかばかばかばかばか!とりぷるばか!!!俺のばか!
果てしないばか!どうしよう。
このままだと、上ツモ下ツモの異変に対局者が気付き、私の小牌がばれてしまう。
なんとかしないと。大変だ。とにかくツモ順を変えてごまかせ。
緊急事態である。
私は、安牌の最有力候補であったはずの東をポンして、9枚の手牌で構え、うまいことツモ順をずらした。
常連であるところの対局者から「代走がしかけるか?」との誹りを受ける。
だが、こちらはそれどころではない。
小牌がバレないように、自転車のハンドルを握るように9枚の手牌の両端を押さえ平静を装う私。
しかしながら、あの無法者が戻ってきたとき、東を仕掛けておきながら手牌バラバラなどという、ふざけたことになっていたら、それはそれでもちろん、ただではすまないだろう。
アガリに向かったけれど、危険牌を掴んでおりました。という感じが一番良い。
そう思い、少し聴牌を意識して牌を集める私。
いつしか手牌は9枚なのに、イーシャンテンのような形になっていた。
まあ、永遠に聴牌は不可能だけどね。
小牌だから。①③③③234七七。東ポン。
どうすれば聴牌できるのか教えて欲しいものだ。
安牌チックな牌は①位しかない。
トイレのドアをチラ見する私。無法者よ。頼むからまだ出てこないでくれ。
てゆうか、早く誰かあがってくれ。
もうこうなったら一枚位拾っちまうか?
もういっそのこと、おまわりさん呼ぶか?
賭博行為で検挙。あ、俺も捕まるなあ。そうしたら、やっぱり退学になるかなあ?
もう、本当にいろいろな思惟が脳裏をよぎる。
わずか数分間のことなのだろうけれど、私にとっては、無限の時のように感じられた。
しかし、残念ながら、トイレのドアが開いた。
無法者のご帰還である。 つづく
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