邂逅4 [つかぴょんの麻雀小説]
狭い入り口を、体を斜めに滑り込ませながら、大男があらわれた。
なんという、迫力。服装から察するに、仕事帰りのようだ。
私は、「ひろりん」のことを、雀ゴロと信じて疑っていなかった為、かなり驚いた。
私は、席を立ち、「ひろりん」のそばへ行き、しっかりとした声で、想いを告げた。
「ひろりんさん、つかぴょんです。私と麻雀を打ってください。」
ひろりんは、ああ君か、という顔をして、私を見つめている。
私は続ける。
「レートは、いくらでしょうか?半荘1回でも構いませんから、お付き合いください。その為に来ました。」
私は、嘆願した。だが、返ってきた返事は、意外な言葉だった。
「つかぴょんくん、らくえんで一度いっしょだった子やね。こんにちは。」
しっかりとした、重い優しい口調。「ひろりん」は続ける。
「わしは、金を賭けて、麻雀は打たんよ。」
「だが、せっかく、来てくれたんだ。ひとつでいい、おみやげを持って帰りなさい」
「あなたの、麻雀を見せてもらえるかな?なにか、教えてあげることができるかも知れない。」
予想していなかった展開に私は、驚いた。
だが、「ひろりん」の温かい口調は、とても自然で、私は当たり前のように、ノーレート健康麻雀の卓についていた。
私の後ろには「ひろりん」が重戦車のように腰かけている。
ノーレートの麻雀?
この俺が?ばかばかしい。
麻雀教室なのだから、止むなしか。
頭の隅でそう感じたが、「ひろりん」の言葉には抗えない力強さがあった。
自分の身の回りに起きている事象に、全く実感が湧かなかった。
ポケットの10万に出番はなさそうだ。
私は、サイコロを振り、いつもの様に、すばやく牌をとり理牌をせずに、他にも打牌候補となる字牌があるにも関わらず、ピンズの⑤⑤⑥から、一打目にいきおいよく⑤を切り出す。
⑤は、激しい濁音をたてて、卓に打ち出された。
打ちなれていないと、できない打牌選択のはずだ。
私は、「ひろりん」に認めて欲しかった。褒めて欲しかったのだと思う。
今思えば、あまりにも脆い矜持。
「捨てた牌を、戻しなさい」
「ひろりん」の重い叱責の声が私の後ろから、強く響く。
え????困惑する私に、「ひろりん」は続ける。
「君の、麻雀は、ひどすぎる。牌を、大切にしなさい。君には、麻雀を打つ資格がない。」
「同卓者を大切にしなさい。
牌や人に感謝の気持ちを持つことができないのならば、
わしが、あなたに教えることは、何もない。
もう、このまま、ゲーム代はいらないから、帰りなさい。」
驚く私に、さらに「ひろりん」の言葉は続く。重く諭すような、優しい声。
「けれど、あなたが、麻雀を勉強したいと本気で望むのならば、
わしの知っていることなら、全部教えてあげる。あなたは、どうしたい?」
私の中の、「上手にお金を賭けずに麻雀の技術を会得したい」、などという、打算的な考えは消え失せていた。
私は、深く息を吸い込んで答える。
「強く・・なりたいです・・・。誰にも負けないくらい。・・・」
「ふむ。」
「ひろりん」は、すこし睥睨したようにも見えたが、にっこり笑った。
「では、まず、牌の扱い方からだ。
わしを信じるのなら、
いままでのあなたの麻雀は全て捨てなさい。」
それから、3年。「ひろりん」と私は、師匠と弟子として、
また何よりも大切な友人として、共に歩むこととなる。
私は、結局、麻雀そのものはたいして強くならなかったけれど、
そんなことよりも、大切なことを、いくつもいくつも、教えてもらった。
まさに、僥倖。この師との邂逅は、私の人生にとっての、宝物となった。
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